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【詳説】日本式ワークライフバランスの取り組みについて

働き方改革が求められる近年、多様な働き方とともに、ワークライフバランスという言葉が広がっています。ワークライフバランスとは日本語にすると「仕事と生活の調和」となります。

もう少しだけ解説すると、「やりがいのある充実した仕事をしながら個人の有意義な生活を両立しましょう」ということです。

実はワークライフバランスとは、日本だけでなく欧米諸国ではすでに広く取り入れられている考え方なのです。

今回は、日本と世界各国のワークライフバランスへの取り組みについて解説していきます。

 

ワークライフバランスはなぜ注目されるのか?

ご存知の方も多いと思いますが、2019年から働き方改革関連法が施行され、2020年より中小企業にも適用されました。これにより有給休暇の取得義務化と残業時間の上限規制が開始されています。

つまり、日本人は今後、労働時間が減少するということです。

これに対して21世紀政策研究所(経団連のシンクタンク)の調査レポートによると日本は人口減少の進行で2030年以降はマイナス成長となり、先進国から脱落する恐れがあると報告しています。

この報告が意味することは、少子高齢化は待った無しで進んでおり、生産性向上の実現が求められています。

 

このような社会情勢からワークライフバランスが注目されています。

 

日本におけるワークライフバランスの歴史

続いて日本におけるワークライフバランスの歴史について紐解きます。

歴史は古く、2007年に経済界、関係閣僚、労働関係代表者、地方公共団体代表者等により、「仕事と生活の調和推進官民トップ会議」が設置されました。この時期は過労死などが社会問題になり始めた時期でもあります。

このトップ会議において同年にワークライフバランスの憲章と行動指針が策定されました。

 

その後、2010年に社会環境や経済情勢の変化からワークライフバランスの憲章と行動指針に改定が入ったのですが、この際、政府としてワークライフバランスの進捗を加速するため、トップ会議に初めて内閣総理大臣が加わりました。

そして2016年に再びワークライフバランスの行動指針に一部改定が入り、現在を迎えています。

 

ワークライフバランスが求められる社会背景

ワークライフバランスが導入された背景について解説します。背景は大きく3つあります。

 

少子高齢化

冒頭で説明した通り、日本にとって労働人口の低下は国家の死活問題です。

現在、日本には世界的な規模の企業が多々ありますが、労働人口が極端に低下すれば企業の存続のため、企業自体を他国に移管する恐れもあります。これを防止するためにもワークライフバランスを導入して少子高齢化の問題を解決する活動が求められています。

 

労働環境の悪化

グローバル化により、国家の境目が無くなりつつあることから、企業間競争が激化しています。

この結果、日本国内だけでも厳しかった企業競争が他国の企業も含めた競争となりました。従って他社に勝つため、人手不足の中小企業は労働環境が悪化している状況にあります。

この状況を打破するため、ワークライフバランスを導入して生産性向上が期待されています。

 

進まない女性の社会進出

出産、育児により能力のある女性が社会復帰できないケースが依然として残されています。スキルのある人材が埋もれているということは個人は元より企業にとっても不幸なことです。

このような環境を改善するため、ワークライフバランスを導入し、女性の社会復帰や社会進出を後押しする活動が求められています。

 

また、女性だけでなく男性の育休取得など、男女共同参画という視点からワークライフバランスは切り外せません。

 

各国の取り組み

これまでは国内の取り組みを中心に説明して来ましたが、次に海外の取り組みに目を向けたいと思います。

 

スウェーデン

最初に説明するのは、ワークライフバランスで世界のトップランナーを走るスウェーデンです。

この国は早くから働き方改革に取り組んで来ました。

 

大きな特長は企業に勤める従業員の70%が労働組合に所属しています。このため、労働環境は団体交渉であるものの現場のニーズにマッチした柔軟性のあるインセンティブを獲得しています。

労働環境は法律で規制しており、労働時間は週40時間。残業規制は1か月50時間、年間200時間までとなっています。

出産休暇は母親に産前、産後で計14週間。育児有給休暇は両親に最大480日与えられます。(両親が同時に休暇を取得することは不可)

また、有給休暇は年5週間取得することが法律で義務づけられており、日本の休暇制度が見劣りしてしまいます。

 

ドイツ

次はドイツです。

日本同様に少子高齢化が急速に進んでおり、新生児の出生率も1.3人と低迷しています。

 

まずドイツの育児休暇制度は、子供が3歳になるまでに合計36か月分の休業が与えられます。(両親で同時に休暇を取得しても良いし、片親だけでも可。)

またこの期間の所得補償は通常時に受け取る賃金の約70%だそうです。

 

多様な働き方という面では「フレキシブルワーク」が推奨されており、フレックスタイム、パートタイム、ジョブシアリング等のモデルを個人のニーズに併せて選択できるような制度を設けています。

休暇制度はドイツの連邦休暇法で年24日取得することになっていますが、一般的な企業では年30日の有給休暇が取得できるようで、ワークライフバランスの重要性を理解している企業が多いのが特徴です。

 

アメリカ

最後にアメリカの取り組みについて説明します。

先ほど紹介したスウェーデンなどは、ワークライフバランス以前に様々な社会福祉が充実しています。それに比べアメリカは、個人の自由が重んじられる社会です。

 

この結果、個人に自助努力が求められるため、ワークライフバランスも政府が積極的に関与することはありません。どちらかというと各企業が独自に定めています。

仕事は成果主義が定着しているため、生産性を高めることが重んじられています。そのこともあってか、一人当たりの年間労働時間は、約1800時間弱と世界的に見ても長時間労働。この背景には法令上、労働時間は週40時間と決められていますが、時間外労働の上限規制が無いためと言われています。

 

そしてアメリカの産休・育休制度は整備されていません。

アメリカの女性は産後3か月以内に職場復帰する人が約70%いるそうです。

 

日本企業の取り組み

それでは日本企業のワークライフバランスの取り組み事例を2つ紹介します。

 

残業削減の専任チームを配置

最初はサービス業の最大手であるJTBの取り組みです。

この企業は、サービス業の根幹を担う営業職が個々のお客様に寄り添うため、慢性的な残業が定着していました。経営層はこの点に危機感を持っており、サービス業の働き方改革に着手しました。

 

手始めに長時間労働の4グループを選定し、外部コンサルタントの協力を得て「働き方見直しプロジェクト」を発足します。

この専任チームが活動を進めることで、長時間労働の要因は、コミュニケーション不足と整理整頓不足であることが判明しました。これをチーム内で自らが考えて解決策を導き実践し、その成功体験を課、部、グループ会社とボトムアップすることでグループ全社に展開していきました。

この結果、残業時間は低減すると共に生産性向上を実現し、意識改革が進化します。

更にワークライフバランスの改善の成功事例を表彰する「JTBダイバーシティアワード」を開催し、役員が参加する場で授賞式や社内報等で共有するなど、社内の本格的な構造改革、意識改革を行ったのです。

この活動により、好循環の情報は全社に共有されて各部門で活かされています。

 

各種インセンティブを新設しモチベーションアップ

次にご紹介するのは住友商事グループの一員であるITソフトウェア会社のSCSK株式会社です。

この企業はIT技術者特有の夜間処理や長時間労働が常態化していました。社員は疲労し、自己研鑽の機会も無いことを危惧した同社の会長がワークライフバランスの取り組みを推進します。

 

手始めに同社は「スマートワーク・チャレンジ20」を設定しました。

この活動は、有給休暇取得日数20日/年、平均残業時間20時間/月を目標設定し、目標達成部門には賞与を特別加算しました。また、目標達成部門には達成祝いの懇親会費用を提供します。

 

次に有給休暇の促進として飛び石連休の間の日を一斉に休暇取得日に設定し、更に有給休暇の完全消化を実現するため、不測の事態に備えたバックアップ休暇(5日間)を新設しました。

同社はこの一連の活動は経営戦略の一部として位置付けられ、全社一丸となって取り組んでいます。この結果、社員の有給休暇取得率は年々、上がっています。これに同調するように企業業績も増収増益を続けています。

 

まとめ

日本におけるワークライフバランスの歴史、背景から最新の取り組みまでを説明してきました。

各国でそれぞれ特徴のある取り組みを実践しています。

 

日本においても様々なワークライフバランスの活動が展開されており、数々の成功事例が報告されています。

ワークライフバランスの活動で最も重要なことは効果を上げているケーススタディを単に取り入れるだけで無く、社員自らが変革に向けて真摯に向き合うことです。

労働時間の減少は必ずしも業績の悪化にはつながりません。ワークライフバランスをうまく取り入れることで、社員の生活の質を上げるだけでなく、会社の業績も上げることは不可能ではないのです。

最近の流行りだからと形だけ取り入れるのではなく、本気の働き方改革に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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