「晴れの日に傘を貸して、雨の日に取り上げる」
経営者の中にはこんな言葉を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。この言葉は、こちらの業況が良い時は銀行から「どうですか?」と融資を売り込んでくるのに、売上が落ちたときには急に冷たくなる、といった銀行の手の平返しを揶揄した言葉です。
これを聞くと、銀行はなんて冷たい対応をするんだ、と思うかもしれませんが、銀行側の立場からすると当たり前といえば当たり前です。
お金を貸して返ってくる可能性が高いところにはお金を貸したいし、そうでないところには貸したくない。銀行もボランティアでお金を貸しているわけではないので、回収できる見込みがない会社にお金は貸してくれません。
しかし、こちらが困っているときに、必ずしも融資を受けられないか、というとそうとも限りません。
そこで今回は、雨の日に傘を取り上げられない方法、つまり業績悪化や取引相手の倒産など困ったときにいかに銀行から融資を引き出せるか、という話を銀行員が解説します。
差し出されたら、とにかく借りておく
1つ目の対策は、差し出されたら、とにかく借りておくことです。
預金で預かったお金を元に融資して、利息を付けて返済してもらい、預金者には満期で利息を付けてお金を返す(満期支払)というのが基本的な銀行の金融仲介機能です。当然ですが預金だけでは銀行の経営は成り立たず、融資したお金を利子付きで返してもらうことで利益を上げています。
なので銀行側はできるだけお金を融資したいのですが、貸したお金が返済されなければ赤字ですから、「確実に返済してくれるところにできるだけお金を貸したい」というのが銀行の本音です。ところで銀行が返済確実と考えるのは、業況が良く、借金しなくてもいい会社です。
なぜなら、借金しなくても会社のお金で充分足りている会社なら、融資しても当然返してもらえるからです。ですから、銀行は業績の良い会社を選び「晴れの日、頼みもしないのに傘を差し出す」ように、融資を押しつけてくるのです。
そこで、もしあなたの会社がこのように銀行から融資を押しつけられたら、とにかく借りておくことをおすすめします。
借金ですから、融資を受けると当然その利息を払う必要があります。たとえばこれが生活費のための借金であれば、必要のない借金は完全に無駄なのでやめた方が良いでしょう。利子を銀行にプレゼントするようなものです。
しかし、経営者が運営のためにする借金は決して無駄ではありません。融資されたお金で規模の大きな事業を展開することで利子以上に儲けを出せばよいのです。
もちろんそれが上手くいくかどうかは経営者の手腕によりますが、銀行が借りてください!と頭を下げてきたタイミングで、より大きな投資をすることを考えてみてはいかがでしょうか。
会社に余裕があり、利子以上の儲けを出してきちんと返済を行えば、事業の規模も大きくなる上に、銀行からの信用度が上がります。こうした信用を作るのは、借金をしなければ経営が成り立たないときではなく、借金をしなくても良いくらいに会社に余裕があるときなのです。
貸出期間を上手に延長する
図書館で本を借りると、貸出期間のうちに返さなくてはいけません。またレンタルDVDなら、延滞すると貸出料より高い延滞金を払わなくてはならず、これは融資も同じ理屈です。融資にも貸出期間(返済期間、期限)が決められています。
例えば6ヶ月・一括払いの手形貸付なら、6ヶ月後にまとめて返済するのが基本です。
しかし、事業が波に乗らず、手元にキャッシュが残っていないというのは、会社を経営していると珍しい話ではありません。
そういう場合は、銀行と話し合って延長(融資では書換、継続と呼びます)することも可能です。
ただ、期限のとき売上が落ちていると延長を断わられてしまうことがあります。業況悪化から、融資の継続を拒否されるのは良くあることです。また、バブル崩壊直後に問題となった貸し剥がしは銀行自体の経営悪化で、いつもなら継続できる会社でも、むりやり返済させようとする「貸し剥がし」もあります。
これらは、予防策はなかなかありません。自社の業績を悪化させたくてしている経営者はいませんし、銀行側の業績悪化に至っては一企業ができることなどまずありません。
こういったケースでも、例えば銀行との関係が親密になっていれば、継続拒否や貸し剥がしにあう危険性は少なくなる場合があります。そうなるには、銀行が困っているとき助けてあげる、コレに尽きます。
例えばさきほどお話した、「差し出されたら、とにかく借りておく」というように、銀行から借りてくれと頼まれたときに借りておけば「あの会社は協力的だ」と銀行は見てくれます。協力的な顧客は、銀行も手の平返しがしにくくなります。
このように、銀行と親密な関係を築いていくと、貸出期間を上手に延長できるようになります。
また、それでも手の平返しされそうになったときでも、困っている時に助けてやったことを主張すれば、それなりに効果が期待できます。
傘はいくつも借りておく
傘をいくつも借りる、つまり複数の金融機関と取引することも大切です。リスクを分散させておくことの重要性は経営者の方なら誰もが理解しているとは思いますが、金融機関はここ、と決めている方は意外と多いです。
「我が社が大変なとき助けてくれた、A銀行以外とは取引できない」
「大恩あるB信金以外と取引するのは、B信金を裏切ることになる」
これは日本的な美徳、昔気質の経営者が良く考えることで、これ自体はもちろん悪いことではありません。しかし、融資では一つの金融機関しか付き合わないのは危険、と銀行員は考えます。
これは競合と呼ばれるもので、取引が最大のA銀行(主力行、メイン行などと呼ぶ)で融資審査が否決されても、2番手のB銀行(準主力、準メイン)がOKするかも知れませんし、ABダメでも3番手のCなら貸してくれるかも、といったように可能性が拡がるからです。銀行も競合については当たり前のことだという感覚なので、それほど抵抗しません。
競合を上手く利用して傘、つまり借入できるところをいくつも持っておくことが大事です。複数の金融機関と取引するのはその分手間も増えますし、いろいろ大変なこともありますが、傘を無くさないためには有効な手段です。
まとめ
ここまでを振り返ると
- 差し出されたら、とにかく借りておく
- 貸出期間を上手に延長する
- 傘はいくつも借りておく
これらは、決して特別なことではありませんし、あくまでも一例にすぎません。今回筆者が伝えたいのは銀行とできるだけ良い関係を構築することの重要性です。
銀行はボランティアや慈善事業ではないので、あまりにも極端な業績悪化など、回収できる見込みがないようなケースでは流石に融資はできません。しかし、融資審査や融資の継続の判断をするのは最終的には人と人です。ギリギリの判断になった時に、良い関係が築けていれば、「とりあえず事業計画や返済計画だけでも聞いてみようか」「前にこちらがお願いしたときに助けてもらったし、なんとか今回も頑張ってもらいたい」という発想は自然に生まれます。
過去にきちんと返済をしていたという事実は当然信用につながります。一般的に考えられているほど、銀行は冷たい会社ではありません。
雨の日に傘を取上げられないために、晴れの日の日傘を積極的に受け取る。これは、ぜひ今後の参考にしてください。