企業会計の一種である「管理会計」は、業績測定・業績評価をする上で欠かせません。
管理会計は、会社の実情を客観的に把握して、経営方針を立てるための指標となります。
その始めの一歩として、売上に関わる製品を作る上で発生する費用「変動費」と「固定費」をしっかりと捉えましょう。この知識はビジネスリーダーなら必ず知っておきたい管理会計の基礎知識となっています。
管理会計とは
企業会計は、「税務会計」と「財務会計」と「管理会計」の3つに大別されます。管理会計について把握するために、3つの違いを知っておきましょう。
税務会計
税務会計とは、企業の課税されるべき所得額を算出するための会計です。
法人税法などの規定に従って行われる会計で、国および地方自治体が課税する税金を計算するうえで用います。主な税金として法人税や消費税、固定資産税などがあります。
税務会計と財務会計では目的が異なるため、収益や費用などを算出する時の規定が異なります。そのため、財務会計上の収益や費用の記載内容と税務会計上のそれとは必ずしも一致しないことになります。
財務会計
財務会計とは、株主や金融機関をはじめとするステークスホルダーに業績を把握してもらうために提出する会計方法のことです。いわば、外部報告のための会計といえます。
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書といった決算時に作成される財務諸表などは、財務会計のための資料にあたり、金融商品取引法、会社法などの法律や、会計基準に基づいて算出されます。上場企業であれば有価証券報告書などは、この財務会計に基づいて作成されています。
管理会計
管理会計とは、自社の経営に活かすために作成する、社内向けの会計のことです。経営者は、管理会計の情報をもとに、自社の経営について分析したり意思決定を行ったり、製品や人事に関する施策を打つことができます。
税務会計や財務会計とは異なり法律などのルールや基準は存在しないため、その企業独自の自由な発想でルールや手法を導入して構いません。有名なものとしては稲盛和夫のアメーバ経営があります。
管理会計の歴史
管理会計の歴史は、1800年以降のアメリカにおいて鉄道会社から始まったとされています。
当時の鉄道会社は他人資本である社債に依存した財務体質であったため、債権者に対し正確な説明を実施するために、鉄道原価計算が開発され、営業路線別業績、拡張路線の評価などに展開されていったようです。
その後1950年頃になると投下資本の最適化やセグメント別直接原価計算、長期利益確保のために、既存の会計システムをベースとした複雑で精緻な計算を目指し発展してきました。
いつの時代であっても企業運営のための資金管理や売上利益管理、予算実績管理などは、多くの人の共通認識を確保するための客観的な指標として重要視されてきたのですね。
管理会計の始めの一歩!「変動費」と「固定費」とは
それでは本題に入っていきます。企業運営を行うためには、必要な経費を「変動費」と「固定費」の2つに分けて、分析することが大切です。
また、売上高から変動費を差し引いて求める「限界利益」を分析することで、会社の儲けの基本となる値を知ることができます。
この他に変動費と固定費から求められる「損益分岐点」を分析することで、どれだけ販売すれば利益が確保出来るのかを知ることができます。
変動費とは
変動費とは、販売量や生産量によって変化する費用のことです。例えばある工場で製品を作る場合、製品の生産量が増えるほど原材料費も増え、逆に生産量が減るほど原材料費も減ることになります。このような原材料費は変動費にあたります。
また運送費や外注費、仕入原価や売上原価なども変動費となります。そして売値から変動費を差し引いた金額が限界利益となるのです。1つの製品を作ると最大いくらの利益を確保できるか?という考え方になります。
限界利益=売値-変動費
固定費とは
売上の増減に比例して変わる費用が「変動費」であるのに対し、販売量や生産量が変動しても一定で発生するのが「固定費」です。
固定費の種類として、家賃や正社員の人件費、水道光熱費や設備機械の減価償却費などがあります。基本的に生産活動をしていなくても発生する費用となるため、この固定費の金額分の利益を確保しないと、赤字が発生してしまいます。そのためこの固定費が企業運営をするための必達の売上目標・ノルマとなるのです。
「変動費」と「固定費」から算出する必達ノルマ
前にも述べたように変動費は販売量や生産量によって変化する費用のこと、固定費は販売量や生産量が変動しても一定で発生する費用でした。
このことを踏まえある製品Aを販売する企業を思い浮かべてください。製品Aの売値は1万円、仕入値は4千円、毎月の家賃などの固定費は100万円となっています。この時製品Aを販売する企業は毎月いくつ販売すれば黒字になるでしょうか?
計算方法は以下の通りになります。
目標販売個数=固定費÷(1個あたりの売値-1個あたりの仕入値)
ここに実際に数字を当てはめてみると
目標売上個数=100万円÷(1万円—4千円)≒167個
となります。
つまり、この会社は毎月167個以上の製品Aを販売しないと赤字になってしまうのですね。この個数に売値をかけた金額(1万円×167個=167万円)が損益分岐点の売上となります。
ちなみに(1個あたりの売値-1個あたりの仕入値)で算出された金額が限界利益となります。1つあたり6千円の利益がある商品を何個売れば良いのか?と考えると分かりやすいかもしれません。
正確に分けられない「変動費」と「固定費」
製品Aを販売する企業の例はとても分かりやすいビジネスモデルでした。
しかしすべての企業運営がの経費を「変動費」と「固定費」に分けられるものではありません。その例として基本料金が発生する水道光熱費があります。水道光熱費は使用した分だけ金額が請求されますが、全く使用しなくても基本料金を請求されます。
このような費用を準変動費と呼びます。準変動費は、操業がゼロになっても一定額が発生しますが、その後操業度の上昇に応じて比例的に増加します。固定費と変動費の中間的存在といって良いでしょう。
準変動費の予算での取り扱い方
結論から言うと、実務では強引に変動費か固定費に分類してしまうのが良いでしょう。その理由としては準変動費を細かく変動費と固定費に分けたとしても、作業が繁雑になり手間がかかるうえ、そこまで管理上のメリットが見込めないためです。
一般的な方法として、予算を策定する決算期の売上予測に基づいて準変動費がどの程度費用としてかかるかを計算します。そしてその金額を固定費として予算に盛り込み企業運営をしていきます。大雑把のように見えますが、強引に変動費と固定費に分けすることで、経営管理者は新しい視点で会社を観察できるようになるでしょう。
まとめ
以上、管理会計としての固定費と変動費の意味や分類、固定費や変動費から考える限界利益や損益分岐点でした。
固定費と変動費は事業の内容によって異なりますし、より正確な経営分析のための数値を出すためには、事業の内容を熟知した会計士や税理士に区分基準を明確にしてもらい、固定費と変動費の分類についてアドバイスをもらうことをおすすめします。