業績は好調ながらも、廃業せざるを得ない経営者がいます。加齢による廃業なら前もって準備はできますが、思いもよらない理由で事業を手放さざる人もいるのです。
そんな時に、何よりも気になるのは従業員をどうするかということです。そんな時に従業員を路頭に迷わせるのを避ける方法として、M&Aという方法があります。
すでに事業の撤退を考えている方はもちろんですが、現在は業績が好調で、事業を手放すことなど少しも考えていないという方も、ぜひ頭の片隅に入れておいてください。
黒字でも事業を続けていけない理由
では、業績不振や加齢による廃業ではなく、やむを得ず廃業するのはどういったケースがあるのでしょうか。収益に関わらず廃業する理由は大きく4つあります。
後継者がいない
このケースは一番多い理由です。少子化と核家族化が進むなか、子どもは子どもで家庭も仕事も持っているという家庭が増えてきています。一昔前なら親の会社を子どもが自然に継ぐというケースが多かったのですが、後継者不足は一次産業のみならず、どの業態でも抱える課題です。
経営はわが子に譲りたいと思う親は多いと思いますが、親の心 子知らず。苦労してきた親の姿を間近で見ている分、決心するには相当な覚悟がいるのでしょう。
また、経営者の中にはあえて子どもには継がせないケースもあります。自分は苦労をしてきたからこそ、子どもに背負わせるのが苦しいという理由もあれば、残念なことに子どもに才覚がないこともしばしば。なかなかうまくはいかないものです。
しかし、このケースであれば、廃業に向けた準備は比較的しやすいので、従業員にも前もって伝えることはできるかもしれません。
経営者に重篤な病気が見つかった
年齢だけでなく、身体の不安から経営をあきらめるのも少なくありません。忙しい毎日でなかなか健康診断にも行けず、体調がすぐれない日々が続いてようやく医師の診断を受けたところ、ステージ3のガンだったというケースも耳にします。
代えの効かない経営者で休みなく働いてしまうからこそ、重症化するまで発覚しないということは往々にして起こり得ることです。
がんに限らず、大病を患ってしまい、治療に専念するために廃業に追い込まれるケースは、前もった準備などできません。
経営者が事故にあった
人身事故は毎日どこかで起こっています。経営者の方に限らず、これはいつ自分の身に起こってもおかしくありません。
これも病気と同じく、状態によっては事業の継続が難しいケースがあります。とくに中小企業は経営者の顔で仕事が成り立っている部分があり、経営者が表に出られないとなると、業績が一気に悪化することは少なくありません。
事故に関しては、やはり前もって準備することなどできませんし、入院中の病室から従業員全員の再就職先を探すというのも大変な労力がかかります。
業界に不安を感じている
2020年に世界中で感染が拡大していった新型コロナウィルスによる経済への影響は未だに収束する兆しが見えません。
飲食業界などのサービス業では利用客は激減し、新しい生活様式の取入れなどで不安を感じる経営者は本当に多いのではないでしょうか。また、今回は新型コロナウィルスが原因でしたが、何らかの外的要因によって、突然経営が破綻するという事実に気づかされたという声も耳にします。
すでに多くの会社や店舗が廃業に追い込まれ、現在はなんとか経営を続けている店舗でも、この状況がいつまで続くのかはわからず、先行きの不透明な中、まだ体力の残っているうちに廃業するという選択肢もあります。
あるいは、業種や業態を一新するというような柔軟な対応も考えられます。
このように、業績が好調であっても突然廃業に追い込まれるというケースは少なくありません。
病気に関しては定期的な検診によってある程度は防ぐことができるかもしれませんが、自己は自分がどんなに安全に気を使っていても巻き込まれることはあります。また、コロナウィルスの感染拡大など、どうにもならないことが起こる可能性もあります。ですから、どんな経営者にも思いもよらない廃業とは起こり得るものなのです。
M&Aとは
さて、最初にも言った通り、経営者の事情で廃業に追い込まれていた場合、従業員が路頭に迷うことになってしまいます。
なんとか事業を継続させたいものの、後継者にふさわしい相手がいなければ、結局その会社をつぶしてしまうことになりかねません。そんな時に会社を救うの手段の一つとして紹介したいのがM&Aです。M&Aとは企業の買収・合併を指しており、経営者を変えて事業を継続していくことを指します。
自社内でふさわしい後継者がいればその人を後継者にして自分は引退するという方法もありますが、会社や従業員を長く残す方法として、より資本や実績のある経営者に任せてしまうのも選択肢の一つではないでしょうか。
そんなM&Aにもいくつかの種類があります。
買取
もっともシンプルな方法は、事業を売り渡すことです。株式会社そのものであれば株式譲渡、事業の一部であれば事業譲渡という形で事業を売ってしまうことです。
株式を譲渡することで現金を受け取る手法や、株式交換・株式移転という形で子会社化する手法などがあります。現在の法人の名義がそのまま残るケースであれば、従業員や取引先などへの影響を小さく抑えることができます。
合併
2つ以上の会社を1つの法人格に統合するのが合併です。
A社がB社を吸収して、大きなA社として経営を行う手法を吸収合併、A社とB社を統合して、新たにC社を立ち上げる手法を新設合併といいます。
経営を諦めて合併を行う際には、一般的には大きな会社に吸収されるか、新たに会社を新設することが多いので、社名は残らない可能性が高いです。
本当に事業が好調なのにもかかわらず、体調面などからやむを得ず合併を行うようなケースでは、社名が残る可能性もあります。
分割
会社を複数の法人格に分割し、それぞれの法人格に事業や資産などを再配置する、分割という手法もあります。
しかし、今回のような事業から撤退する際のM&Aとしては基本的には考える必要がありません。
優秀な社員に会社を継がせられないのか?
M&Aは第三者に会社を与えることなので、これまでに関係のなかった者に譲り渡すということに抵抗感を覚える経営者は多いと思います。
できることならこれまで一緒に頑張ってきた社員に譲渡したいと考えるのは自然なことだと思います。そういった事業の継続の仕方は難しいのでしょうか。
株式譲渡を受けられる資金があるか
事業承継と聞くと親から子への承継を思い浮かべるかもしれませんが、従業員承継もしくは社内承継という手もあります。事業のすべてを理解している従業員に会社を引き継ぐのですから、今後の安心感も強いはずです。
親族間での承継では候補者に限りがありますが、素質のある従業員から選べる点では選択の幅も広く、引き継ぎも最小限で、取引先が受け取る抵抗も小さいでしょう。
しかし、事業承継をするためには、株式を引き受けるだけの資金が必要です。
M&Aで株式譲渡を行う際には買い手から譲渡する株式分の金額を対価として受け取ります。新しい経営者となる従業員からも相応の代金を受け取らねばなりません。そのため、事業を任せたいと思える従業員に払えるかどうかが問題なのです。
ならば金額を下げればいいのですが、受け取る金額は経営者の今後の生活費になります。もちろん会社は大切ですし従業員も大切だとは思いますが、M&Aを行うことによって得られた金額をすべて捨ててでも従業員に継がせられるかというと難しいのではないでしょうか。
従業員が引き受けるとは限らない
一般的に従業員は昇格すると喜ぶと思います。
給料が上がり、できることが増えると多くの人間にとって歓迎すべきことでしょう。しかし、単なる昇格と、社長になることはまったく違います。
社長になるということは、会社の負債も背負うことになるため、誰もが社長になりたいかと言うと、一概にそうとは言えないのです。
この従業員に任せたいと思える能力があったとしても、その責任を背負えるかどうかはまた別問題でしょう。
社内に派閥があるとトラブルの原因になりやすい
自分の会社に限って派閥なんてと思うかもしれませんが、従業員が退職する原因の第一位は人間関係の問題です。社内にグループがある場合、中立の者か、もとから後継者として育てていて他の従業員からも同様の扱いを受けている者でないとうまくはいきません。
一度、従業員承継を行おうとして失敗をすると、従業員同士の関係にヒビが生じるケースもあります。従業員から新たに経営者を選ぶよりも、第三者に投げてしまう方が上手くいくことは案外多いのです。
会社の急な発展は見込めない
従業員承継のメリットに企業理念や社風を引き継ぐことができるという点があります。しかし、これは逆にいうと、これまでの経営から大きく変えることができないと言い換えることも可能。
一方で、M&Aを行うと別会社同士の協力により、飛躍的な発展を遂げられる可能性もあります。特に、現在の会社以上の資本をもつ企業とのM&Aであれば、その可能性はより高まるでしょう。
まとめ
突然大病を患ったり大きな事故に巻き込まれる可能性は、誰にでもあります。
新型コロナウィルス感染拡大のあおりを受け、今まさに不安に駆られている経営者の方も少なくないでしょう。突然の廃業を迫られた際、子どもや従業員への承継が上手くできればいいですが、うまくいかないケースも少なくありません。
事業継承が上手くいかなければ会社を廃業するのにも、あらゆる備品の処分や従業員の退職金など、相当な金額が必要です。
そうした際にはぜひM&Aも選択肢の一つに入れてみてください。
廃業に必要な諸経費がかからない上に、まとまった金額が入ってくるというのは、自分の会社を第三者に譲るという抵抗感を踏まえても、価値があるのではないでしょうか。